Kuma Ichigo (くま一号)
  • Author:Kuma Ichigo (くま一号)
  • Kuma Ichigo (くま一号)の Hobby site.
    YURI, NOVEL GAME, VOCALOID & VOICE SYNTH.
  • RSS
怪盗紅薔薇の隠れ家
【を】な別室、です。
Counter



最近の記事


最近のコメント


カテゴリー


ブログ内検索


RSS


mail form

名前:
メール:
件名:
本文:


月別アーカイブ


スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

聖ワレンティヌスの小さな奇跡 -前- (笙子同盟寄稿版)



 聖ワレンティヌスの小さな奇跡

-前編-







act.1

 成人式の前後の連休にはセンター試験がある。講義室が使えないし準備もあるので、大学はまだ休み。お姉ちゃんは家に帰ってきてた。

 それにしても、暮れに帰ってこないって電話があった時は、驚いたなあ。

“あ、笙子ねえ、お正月は帰らなくてその次の週に帰るから”
“え? お姉ちゃんどうするの?”
“うん、大学の友達とスキーに行くのよ”
“えええっ?”

『お姉ちゃんが』
『大学の友達と!』
『スキーに行くので!!』
『正月には帰ってこない!!!』
 お姉ちゃん、いえ内藤克美さん、あなたはいったいどうしたんですか。



「はいるわよ」
「うん、お帰りなさい」
「ただいま笙子。なーに、まだ着替えてないの? ああ、それね、すんごいカメラを買ったって。お母さん目を丸くしてたわよ」
「うん、そうだよ」
「あのね、笙子。そんなことしてる間にもライバルは勉強してるのよ。ちゃらちゃらしてたらいい大学へは入れない。だいたいそんなカメラ、使い方覚えるのだ けだって時間がかかるじゃないの。そんなことしてる暇があったら勉強するの。お姉ちゃんはちゃんと志望校に入ったわよ。ライバルがまだ油断してる一年生の 時から勉強すれば有利なんだから」
「だあって」
ぷーっとふくれてみせる。いつものお姉ちゃんだ。いつもの……あれ?

「ぷっふふふふふっ」
「お姉ちゃん?」

「それで? 妹になるのならないの?」
「お、おねえちゃん!?」
「聞いたわよ。武島蔦子の金魚の糞なんでしょ?」
「き、きんぎょのふん~~~!! ひどーい」
うそだあ。お姉ちゃんがどうして。

「で、妹になるのならないの?」
「三奈子さまみたいなこと言わないでっ。誰に聞いたの?」
「ほお、築山三奈子が追っかけてくるくらいの有名人になったか」
とん、と肩に手を置くお姉ちゃん。
「部室が隣だからですっ」
なんか、ずいぶん雰囲気が変わったな。これ、ほんとにお姉ちゃん?

「蓉子に聞いたのよ」
「ようこ、さんってまさか、ロサ……」
「そう。その先代紅薔薇の水野蓉子。一緒にスキーへ行ってね。ふふふ、蓉子は祥子さんや祐巳ちゃんから情報が入ってるからいろいろ聞いたわよ、あることないこと」
「えええええっ。あることないことって、ななな、なにを」

 信じられない。だいたい、蓉子さまだってお姉ちゃんの分類では『浮かれている人たち』の中にはいるんじゃなかったっけ? 山百合会幹部なんて暇人のあつまりで、あこがれるなんてミーハーだけって言ってたのはどこのどなたですか。

「茶話会のこと、とか、金魚の糞のこととかね。デジカメラちゃんってだれのことかしら」
「おおおねえちゃんっっ!」
 真美さまならともかく、お姉ちゃんからこの攻撃は予想もしてなかった。うわあ、なんかまた顔がほてってきた。


「あれ? この写真って」

 あ、写真立て。去年のバレンタインのお姉ちゃんと私の写真。まずい。蔦子さまが言ってた。 
『克美さまがこんな写真見たら激怒するわよ』
ところが。

「なつかしいわ」
眼を細めて優しく笑うお姉ちゃん。写真の中のお姉ちゃんの表情と同じだ。
「蔦子さまが撮ってたの」
「うん、いい写真だわ。さすが蔦子さんね」
「そうでしょ」胸を張る。
「お、もうのろけ? でも、ひとつの奇跡よね。本当なら一緒に高等部にいるはずがないのに制服で一緒に写ってる。まるでスールみたいにね。私にも焼き増ししてくれないかしら」
「もちろん、してくれると思う。頼んどく」
「うん、お願い」


「お姉ちゃん、変わったね」
「笙子も変わったわ。たぶん、この日から変わったのよ。違う?」
「うん、たぶん、そう。でも、お姉ちゃんはバレンタインデー、何があったの?」
「この日の試験で合格したわ」
「うそ、そんなことじゃないでしょ」
「なによ、笙子だって見てたじゃない。わからないなら秘密!」
「お姉ちゃんずるい。」


「蓉子がね。」お姉ちゃんは急に話を変えた。
「この日が人生最良の日だったって言うのよ」
「あ、それ、聞きました。薔薇の館を人でいっぱいにするのが蓉子さまの悲願だったって」
「そう。だから願いがかなったこの日に受験した大学に入っちゃった。第一志望じゃなかったのに」
くすっ、と笑う。
「私もね、最良の日だったのよ」
「そんなの、聞いてない」
「話してないもの」
「やっぱりお姉ちゃんずるい。私のことは全部蓉子さまから聞き出したくせに」
「全部は聞いてないわよ。妹になるのならないの?」
「あーーん、秘密!」

「あはは。勉強『も』しなさいよ」
「はーい」
「じゃあとでね」


 とぼけたふりをしたけれど、本当はだいたいわかってる。
お姉ちゃんも追いついたんだ、あの日。
勉強しても勉強しても追いつけなかったあの人に。

会ってみたいな、と思った。その人に。




act. 2

「笙子ちゃん、あんたたちいったい、なんてことしてくれたのよっ!!」


 写真部の部室に蔦子さまとふたり。今日の成果を見ながら「うーん、祐巳さんはいいっ、今日もいいっ」なんて蔦子さまの横顔を眺めていたら、突然真美さまが飛び込んできた。

 私、なにかした? しかもあんた「たち」。

「真美さま、私、なにかしでかしましたか?」
「まあまあ、座りなさいよ」と、蔦子さま。

「何かしでかしましたかじゃないわっ。とんでもないことしてくれたわよ」

「はあ。」

 しかたないので、インスタントコーヒーを入れる。蔦子さまの黒一色のマグカップ、私はバラのついた白いマグカップ。お客様用は、使い捨てのプラスチック。

「そもそもね、一月の中頃から『今年はなにかやらないんですか?』って特に一年生から聞かれていたわよ。それがだんだん声が大きくなってきて、この前なんか一年生に取り囲まれて、今年も是非ってたいへんだったわよ」
「今年は、ってなんのこと? 真美さん」

「バレンタイン企画に決まってるじゃないのー!」どんがらがっしゃーん。

「は?」 と顔を見合わせる蔦子さまと私。

「で、それがどうしてわたしたち……」
「どうしてもこうしてもあるかーっ」

……はあ。

「今朝、登校してきたら、中等部の子たちに囲まれたのよ。『今年はやらないんですか』って。中等部よ中等部」
……ぎくっ。

「その上さっき、紅薔薇さまに呼び出されたのよ。それで薔薇の館に日出美を連れて行ったら、3薔薇さまが待ちかまえていてね」
「なんか話が大きくなってきたわね」
「中等部の子がね、お姉さん、実のお姉さんよ、とかクラブつながりの先輩から、高等部の子の制服を借りる予約が殺到してるって言うのよ。バレンタインデーに」

 うわ

「最近、由乃さんが中等部の子、有馬菜々ちゃんだっけ、よく呼んでくるでしょう? その菜々ちゃんの話だとね、『乃梨子さまに青田刈られ隊』だとか『秘密結社エミリーのプティスール同盟』とかわけわかんない秘密組織が中等部に暗躍してるらしいのよ」

 あああああ

「それで、紅薔薇さまが『外部の方が、たとえリリアン中等部の者であろうと、高等部の制服で高等部に入り込むのは、安全上も風紀上も好ましくありません』とおっしられまして、『今年は企画はなさいませんの?』にっこり」

 怖い。それは怖いです。

「『生徒会も協力を惜しみませんから、安全上風紀上問題のない企画を立てていただけませんこと? このままでは学内が落ち着きませんことよ』って、さーどーするのよ、この元凶姉妹」

「元凶ってねえ」
「まだ姉妹じゃありません」

「笙子ちゃん、反応するのはそこか。まあそれはともかく。企画よ企画。責任とってなんか考えてよ」
「去年と同じでいいんじゃないの?」
「半日デートはねえ、つぼみの負担が大きいし今回は学外に出る企画はダメって」
「カード探しはあれでいいの?」
「部外者の乱入を防げればね。それも頭が痛いわ」

 ふう、と息をつく真美さまと蔦子さま。
まいったなあ、そんなにすごいことになってるとは思わなかったわ。
 と、目にとまる一枚の写真。

「真美さま、これ、どうでしょう」
「どうでしょうって、学園祭の時に瞳子ちゃんが祐巳さんと衣装のまんまでデートしたときの写真じゃない」
「ですから、紅薔薇のつぼみの妹に協力してもらって、演劇部の衣装でツーショット写真を撮るんです。デートより思い出になるかもしれませんよ」
「ああ、それ。いいかもしれない」


 かくして。ことしのバレンタイン企画も始まってしまったのだった。
「それってコスでプリクラって言いませんか?」という乃梨子さんのツッコミはともかく。



<続く>



2006/02/20 公開
関連記事



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。